現在進行中の研究内容

核融合プラズマの理論・シミュレーション

核融合の医療応用

空気清浄システム開発

核融合プラズマの理論・シミュレーション

核融合とは

  核融合とは、軽い原子核同士が融合し、より重い原子核に変わることです。例えば、図に示すような水素の同位体である重水素Dと三重水素Tが融合するDT核融合反応です。

 この反応では融合反応が起きる前の重水素と三重水素の重さより、反応後のヘリウムと中性子の重さの方が軽いので、その差の分だけの質量がエネルギーに変わります。 アインシュタインの原理(E=mc2)より、わずかな質量が大きなエネルギーに変わるというものです。

 1gのDT燃料の核融合反応から得られるエネルギーは、約8tの石油を燃やしたときの熱に相当します。この核融合エネルギーを発電などに利用するために世界各地で研究が行われています。

燃料供給法

 核融合発電を実現するためにはプラズマ状態を維持する必要があります。現在プラズマ状態を維持できない原因としていくらかの要因がありますが、その一つに燃料粒子の損失があります。 この問題を解決するために粒子補給技術が提案されてきました。本研究室ではその燃料供給法についての研究を行っています。

CT入射

 CTとは、compact torusの略で、プラズマ状態を磁場により維持する方式の一つです。球状のプラズマを維持することから「火の玉プラズマ」と呼ばれたりもします。

 下は本研究室の研究テーマのひとつであるCT中性化入射法についての説明です。

      

ST合体

 STとは球状トカマクのことであり、本研究室ではこのSTを合体させることで燃料の供給ができるのではないかという観点から研究を行っています。この方法について3次元のMHD(電磁流体力学)シミュレーションを行い、プラズマが移送・合体する様子と主プラズマへの粒子供給効果が確認することが出来ている。

FRC(Field Reversed Configuration:磁場反転配位)

 核融合反応を起こすために核融合反応は二つの原子核同士を衝突させて、融合するものです。原子核はどちらも正の電荷を持っているため、早いスピードでぶつけないと反発力のため衝突しません。 衝突させるために必要なスピードは1千km/sであり、このスピードは重水素と三重水素を1億度以上の温度に加熱することによって得られます。 このような高温では重水素と三重水素はプラズマという状態になっており、継続的にエネルギーを得るためにもこの状態を長い間維持することが必要となってきます。

○プラズマを維持する方法○

 プラズマを維持するための方法には、慣性閉じ込めと磁場閉じ込めがあります。本研究室では、磁場閉じ込め方式の一つであるFRCに注目して研究を行っています。 FRCプラズマとは図に示されるようなプラズマです。主な特徴として以下のことが挙げられます。

・ベータ値(プラズマの閉じ込めやすさを表す値)が高いため、比較的弱い磁場でプラズマを閉じ込めることが可能。

・装置が直線状であるため、メンテナンスが容易。

・直接電流を流すことが可能。

 このように、高ベータプラズマとして魅力的なFRCプラズマではありますが、配位維持時間が数百マイクロ秒のオーダーと短く、現状では良い改善方法も見つかっていません。 したがって、FRC研究を活性化するためには,配位維持時間を現在の10倍から100倍に伸長することが不可欠となります。本研究室でも配位持続時間を伸張するために、シミュレーションを用いて日々研究を行っています。

 下は配位維持時間が短い原因の代表例であり,本研究室でも重要なテーマのひとつであるプラズマの回転についての説明です。

核融合の医療応用

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)

BNCTは,実用化が近づいている最新のがん治療法である.
正常な細胞へのダメージがほとんど無く,がん細胞のみを破壊する.

BNCTの原理

1. 患者にホウ素化合物を投与する.この化合物はがん細胞に選択的に取り込まれる.
2. 患部に熱中性線または熱外中性子線を照射する.
3. 中性子とホウ素が核反応を起こし,アルファ線などの放射線を放出する.
4. 放出された放射線によってがん細胞を破壊する.これらの放射線の射程は,細胞一つと同程度であるため,周囲の正常細胞への影響はほとんど無い.

BNCTの現状

 BNCTを行うためには,中性子源が必要となる.現在,研究が進められて実用化が近づいているのは,サイクロトロンを用いた加速器中性子源である.加速器中性子源は京大原子炉実験所などによって研究が進められ, 臨床試験が行われている.BNCTの研究は日本が世界をリードしている.

BNCT用小型中性子源

 

BNCTの問題点と小型中性子源のニーズ

 BNCTの問題点としては,治療に必要となる中性子源が非常に大規模(10m~)である点が挙げられる.装置の規模が大きい場合,設置するために新たな建屋を建てる必要がある.そのため,コストが高くなり,既存の病院に導入することが 困難となる.
 そこで,EEDLではコストが低く既存の病院にも比較的容易に導入可能な,新しい小型中性子源(1m~)の研究を進めている.

小型中性子源の原理

 この小型中性子源は,重水素どうしのD-D核融合反応によって中性子を生成する.装置両端に設置されたイオン源から重水素イオンを生成し,30keV程度まで加速する.それらが装置中央に設置された反応容器内で衝突し,D-D核融合反応を 起こす.以下の式で表される核融合反応によって中性子が生成される.

研究内容

 現在,EEDLでは小型中性子源の製作を目的として,装置設計を数値計算によって行っている.数値計算では,コイルや電極などが作り出す電磁場が,重水素イオンや電子の運動に与える影響をシミュレーションする.これによって, D-D核融合反応をおこすために最適なコイルや電極の構造を求める.その後,試作機を製作して実験を行う.

空気清浄システム開発

研究背景

 花粉症患者数は年々増加し,現在の国内患者数はおよそ2,200万人と推定[1]され,社会問題となっている.花粉症は,アレルギー性鼻炎,結膜炎,咽喉頭炎などのアレルギー疾患の総称である. これら症状に伴い低下したQOL(Quality Of Life)の改善が必要不可欠である.QOLの改善は,薬物療法を含むメディカルケア,セルフケアの二種に大別できる.

 花粉症患者の症状消滅時期は,屋外飛散時期の終了よりも遅れ,屋内に搬入され残留した花粉が関係している可能性がある[4]という.即ち,アレルゲンである花粉との接点を減らすには, オフィスや居住空間などの屋内での花粉を効率的に除去しなければならない.それにより,屋内に於ける花粉症症状により低下したQOLを改善できる.従って我々は,屋内花粉の高効率除去という工学的なアプローチで, 花粉症対策の研究を行っている.

 花粉の効率的な除去には,花粉挙動特性の明確化が必要不可欠である.現在最も普及している屋内花粉除去装置は,空気清浄機である. そこで我々は,空気清浄機による屋内花粉挙動シミュレーション,及びその解析ソフトウェアを開発した.

[1](株)シード・プランニング:2005年版 アレルギー性鼻炎(花粉症)患者数の動向

[2]清澤他:住宅等への花粉搬入量,日本建築学会環境系論文集 558,37-42 (2002).

[3]大橋えり,吉田伸治,大岡龍三,宮沢博:室内空気のスギ花粉個数濃度とアレルゲン(Cry j1)濃度について,日本建築学会環境系論文集 594,39-43 (2005).

[4]高橋裕一,宮沢博,阪口雅弘,井上栄,片桐進,他:室内塵中のCry j I量と空中スギ花粉数との関係,アレルギー 43,97-100 (1994)

屋内花粉除去シミュレーション・ソフトウェアの開発

 空気清浄機による屋内のスギ花粉(Cryptomeria japonica pollen)除去シミュレーション及び解析・可視化を行うソフトウェア CAMPAS(CFD and Aerosol Motion Property Analysis Suite)をC++で開発した[1].

 CAMPASは,数値流体力学とエアロゾル(花粉などの浮遊粒子状物質)挙動シミュレーション及び解析ツール群のことであり, LESによる乱流場計算を行いながらLagrange粒子追跡によるエアロゾル挙動計算を可能とする.非商用の流体解析ソフトでは,Code_Saturne,OpenFOAMが有名であり, Code_SaturneではRANSなどの平均流れ場でのLagrange粒子追跡が可能であるが,時発展する流れ場での粒子追跡が出来ない[2].OpenFOAMもポストプロセスで粒子追跡を行うだけである. また,これらのソフトウェアは独自形式でInput/Outputし,機能拡張のためのコードの改変が難解である.また,フリーの可視化ツールが持っている機能は,可視化目的によって過多・不足が激しく,操作性が低い場合がある.

 当研究室で開発を行ったCAMPASは,乱流解析にLarge Eddy Simulationを採用し,Sub-Grid ScaleにはCoherent Structure Smagorinskyモデル[3]を用いている.

 可視化ツールを非常に軽快に動作するようにOpenGL&C++で開発し,ノートPCでも充分に動作する.

 本ソフトウェアを用いて計算した結果を以下にまとめる.

 Fig. Intakewise (a) and exhaustwise (b) mean velocity profiles [4]. CAMPAS mean velocity is indicated by (+), and Code_Saturne is indicated by (*). The intakewise direction is Y (a), and the exhaustwise direction is Z (b). The mean velocity component plots at each position is proportional to the velocity component from the basic position. The mean velocity is averaged in 10 seconds and in the X axial direction. The box at the plot area bottom is the air purifier, the dots on the Y (a) Z (b) axis indicate the basic position, the twin dot at the plot area upper right indicates normalized mean velocity.

 Fig. Intakewise (a) and exhaustwise (b) rms velocity profiles [4]. CAMPAS rms velocity is indicated by (+), and Code_Saturne is indicated by (*). Other rules are the same manner as above figure.

 Fig. Airflow animation on the Y-Z plane of the indoor airflow created by the front-intake air purifier. The figure indicates the airflow in the range of 150 to 160 seconds after starting up the air purifier. The vector color and the vector length indicate the volume of flow velocity in proportion to the common logarithm. Red and blue of the vector indicate maximum velocity and minimum, and yellow is 75%, green is 50%, cyan is 25%. The URL of this YouTube video is http://youtu.be/t5Hc03obo0I.

 Fig. Side-view of the Pollen Motion Animation. The pollen grains is calculated particle tracking in the airflow generated by the front-intake air purifier, the fluctuation turbulent airflow is computed by Large Eddy Simulation. The exhaust louver of the air purifier is fix. The green dot represents floating pollen, and the red and gren dots represent pollen inhaled to the air purifier and the fallen pollen. The URL of this YouTube video is http://youtu.be/UMDMgt_g8o8..

 Fig. The distribution of the pollen inhaled into the air-cleaner at 700[s] (Left) and the pollens fallen on the house floor at 700[s] (Right). The air-cleaner exists at the center, the inlet surface of the air-cleaner points at the near side. The air-cleaner is same position and point.

 花粉挙動の様子をより直感的に理解し把握するために,AR技術を用いた可視化ツールを開発した.この可視化ツールは,webカメラの映像に,花粉挙動の情報をCGとしてオーバーレイするものである.

[1]橋本明憲,髙橋俊樹:空気清浄機を設置した屋内の花粉挙動解析ソフトウェアの開発, 日本花粉学会誌 56(2),pp.71-81 (2010).

[2]EDF: CodeSaturne ver.2.3.0 practical user's guide,
http://code-saturne.org/cms/sites/default/files/user-2.3.pdf (W/O Anchor-Tag).

[3]Hiromichi Kobayashi: The subgrid-scale models based on coherent structures for rotating homogeneous turbulence and turbulent channel flow, Phys. Fluid 17, 045104 (2005).

[4]橋本明憲, 髙橋俊樹, 松本健作, 鵜崎賢一:空気清浄機の生成する室内気流と花粉挙動のシミュレーション, 室内環境 15(2), 147-161 (2012).

CUDA化

 乱流計算にはLESを用いているが,圧力のPoisson方程式の収束に多大な時間がかかり,これがLES計算の過半を占める.LESも通常の計算と同じように, 計算速度は計算機に依存する.計算機の性能(flops)は年々上昇しており,右図を見ると1945年~2010年までは指数関数的である.

 従来通りのコア単体性能の劇的な性能向上は非常に難しく,コア数を増やして処理性能を上げようとする場合が多い. CPUは汎用性を追求しているので複雑なコアとなり,ダイに4個程度しか載せることは出来ない.しかしGPUは単純な処理を目的としているので(SIMD),GTX 680は1,536Coreを搭載している. このGPUの莫大なコアを用いて,3Dポリゴン描画以外の汎用性のある計算を並列で行おうというのが,GPGPUである.GPGPUにはアルゴリズム的に向き・不向きな物があるが,流体計算・粒子追跡はGPGPUに向いている.

 簡単にまとめると,グラフィクスカードは高性能だから,シミュレーション計算にも用いたい!という流れがGPGPUである.

 本研究室では,流体計算であるLESと粒子追跡コードを,従来のCPUコードに加えてCUDA版を開発した.このCUDA版により,LESは20倍,粒子追跡は5倍の計算速度となることを確認した.

用語解説

SIMD(Single Instruction Multiple Data):複数データを1つの命令で(複数のコアで同時に)計算する形態.ベクトル演算とも.

GPGPU(General Purpose Computing on GPU):GPU(グラフィクスカード)を画面出力の為の計算以外に,様々な汎用な目的のためにGPUで計算すること.

CUDA:nVidiaが提供するGPGPU開発環境.他に,ATI Stream,DirectCompute,OpenCL等.OpenACCでも可能.

新空気清浄システムの開発

イメージ図

 現在私たちの研究室では,花粉除去の新しいシステムを開発中である.

 屋内への花粉の侵入は,窓やドアが開いた換気時に多く起こり,窓やドアから侵入した花粉は室内に拡散される.窓やドアを開けずに生活することは不可能である.

従来の空気清浄機の場合

 通常,空気清浄機は,室内に吸気と排気で空気の流れを作り花粉を除去します.空気清浄機が作り出す空気は部屋全体に広がるため,花粉を部屋全体に運びます.室内に花粉症患者がいる場合,この花粉による影響が現れます.

開発中の空気清浄システムの場合

 窓やドア付近にセンサを置く.窓やドアから花粉が侵入したときこのセンサにより侵入を感知する.次に,センサから空気清浄機に侵入してきた花粉の情報を送る.その情報を基に,空気清浄機により適切な気流パターンを選択し実行する.効率的かつ迅速に自動で花粉を除去する.現在新システムの開発のため,花粉センサ,通信システム,気流制御,空気清浄機の実験,製作を行っている.